日本のゴールデンウィーク明けの5月中旬。ホノルルでトライアスロン大会がある。
今年は5月19日、参加者250名。オレもその中にいた。スイム、バイク、ランの順で競い合うのがルールだが、その日のオレはスイムが絶好調。前半で大きくタイムを稼ぐことが出来たので、バイクは楽しみ、ランでは沿道の声援をくれる人達と世間話しをする余裕すらあった。
何十人か話終えたところで、一人の小柄の美女がミネラルウオーターのペットボトルを差し出してこう声をかけてきた。
「オー。アナタハ、ホクリョーコーコーノセイトデシタカ?」
英語訛りの日本語だったが、美女はたしかに日本人だ。
「ワタシモホクリョーコーコーデシタ」
ゴールまで後2キロほどだったが、オレは歩幅を小さくした。彼女もその長い髪をなびかせながら沿道を走った。
レースコースと沿道のオレたちは井戸端会議に花を咲かせた。というのも、偶然にしては出来過ぎた事だが、彼女はオレの高校のひとつ下の懐かしの片思いの女性だった。聞けば、ホノルルに移住してもう35年と4カ月と6日になるという。
「アナタハワタシノコト、マダスキダッタデショーカ?」
すっかりアメリカナイズされたようで日本語の文法がちょっと変だが、それでも伝わってきた。
オレはどう返事したらいいか考え考え走った。
「アタリマエジャン」
この英語訛りの日本語はウケた。彼女はハワイの花のレイを首にかけてくれると、オレの左頬にキスをしようとコースに身を乗り出した。
お互い走っているもんだから、残念にもその彼女の口唇は外れ、後ろを走っていたタンザニアのイカンガーが受けた。
彼女のスピードが落ちたが、こっちはまたとないレース運び。ゴールを目指さなければならない。遠ざかる彼女にオレは映画「ターミネーター」のアーノルド・シュワルツェネッガーを気取って振り返り叫んだ。
「アイル ビー バック!」
そんなことでタイムは削らはしたが、なんと5位でゴールした。
というのは、昨夜、見たはかない夢だった。
2019.9.03 Kiyoshi Nishinomiya