2013
Feb 02
(Sat)

井田さんのオトテン


 井田さんの二世帯住宅は3階建てだ。建築基準法に2階建て用の構造では通らず、より強固な基準で作ることが求められる。だから、コストが、うんと高い。
 加えて井田さんの家の3階は贅沢な防音室仕様。親世代のご主人がバンド仲間と練習する部屋になる。防音ドア、壁、天井の三拍子。ワルツ。またコストが、うんとはった。
 建築中ではあるけれど、親世代のご主人はその3階にのぼり、試しに、うわっうわっと、叫んでみたが、階下にいた親世代の奥さまにその狂喜ぶりは届かなかったという。
 特に天井材・商品名「オトテン」の音の吸収率が優れている。シャットアウトするのではなく、スポンジのように吸い込む効果。
 親世代のご主人はその効果に感激のあまり、自らのバンド名を「オトテンバンド」と改名し、ほぼ3階から降りない生活を考えているという。

2013.2.02 Kiyoshi Nishinomiya

2013
Feb 01
(Fri)

Tさんの3rdプラン


 
 


 Tさんへの3番目のプランは没になった。
 ラップサイディングを基本とし、2階の張り出しの部屋を、柱を浮き彫りにしたチューダー様式に飾った。一級建築士の細井ちゃんと二級建築士の私は自信があったが、Tさんの奥さまが、なんとなくログハウスぽい雰囲気に首をかしげたからだった。
 細井ちゃんは狙いをはずしたことに、思わず、ごくりと、ツバをのみこんでいた。
 まだ3番目のプランでしょ、5番目、6番目あたりで決めていただければ。ねぇ、Tさん。
 と、私はTさんご夫妻と細井ちゃんを広角に見たが、細井ちゃんは体を硬直させたままだ。
 この差である。細井氏は一級建築士だが、私は二級建築士と宅地建物取引主任者のセット。
  私の方が年収が高い。
 A物件はお気に召しませんでしたか、いや実はね、とっておきのB物件があるんですが、それはまたご案内しましょう。
 不動産屋的あいまいさ。
 容積率、建ぺい率、天空率、斜線制限などに苦心惨憺の細井ちゃん。彼も宅地建物取引主任者の資格を取ったら、心も軽くなるはずだ。

2013.2.01 Kiyoshi Nishinomiya

2013
Jan 31
(Thu)

天童荒太の「ミステリーの書き方」


 日本推理作家協会編著「ミステリーの書き方」は天童荒太のパートに入った。
 天童荒太。代表作に「孤独の歌声」「家族狩り」「悼む人」がある直木賞作家。透明感のある記述、飾らない表現。なのに深く考えさせられる文体。推敲に推敲を重る寡作。ストーリーばかりでなく作者の人柄も反映されていそうな作品には、いつも、わぁっと、言葉にならない感嘆の声を上げさせられる。
  その天童荒太のミステリーの書き方。
 「これからの人へ。時間がかかることを嫌がらず、遠回りの道を避けないで、はじめは自分のためであっても、いつかは誰かのために書いてほしい。」
 インターネットには触れず、携帯電話も持っていないという。
 自分の作品と対話する生活ぶりが伝わってきた。

2013.1.31 Kiyoshi Nishinomiya

2013
Jan 30
(Web)

Yさんのセカンド・プラン



 Yさんのセカンド・プランがまとまった。
 Yさんご夫妻の家の設計を始めたのが去年の12月8日のこと。いつものごとく、茅ケ崎南湖モデルハウスで一級建築士の細井ちゃんと二級建築士の私と施主様と集い、スタートした。
 細井ちゃんは、こういう時必ず自ら用意した「ヒアリング・シート」に個人情報を書き込むところから始める。
 ご家族の構成は? 希望の部屋数は? 車は何台?  将来親御さんとの同居は予定していますか?
 横に座っている私、このやり取りを幾度となく聞いているんだけれども、細井ちゃん、もっと他の切り口ございませんかねえ。
 私なんか、どうしてこの二人が出会って結婚したんだろうって、それが一番知りたい。
 だから、時々、
 「おふたりのなれそめは?」って、口をはさむんだけど、細井ちゃんは決まってムッとする。
 とはあれ、セカンド・プランがまとまった。
 3月には建築確認申請か。

2013.1.30 Kiyoshi Nishinomiya

2013
Jan 29
(The)

「ミステリーの書き方」


 
 私、だいぶ前から一篇のミステリー小説の構想を温めていた。このたび、ようやく執筆準備が整った。
 プロットを立て、キャラクターを作り、文体を選び、あとは書くだけとなった。
 それでも、この小説が面白いのかどうかとなると自信がない。そんな時、目に触れたのが日本推理作家協会編著「ミステリーの書き方」という本。
 企てているミステリーがメソッド通りなのかどうかを検証するために読み始めた。
 そうしたら、「亡国のイージス」「終戦のローレライ」でおなじみの福井晴敏のパートが最初にあり、その中で記されている指南に、私、とまどった。
 「メールやネットへの書き込みに時間を取られ過ぎるのは禁物です。それがなんであれ、物を表すということは”気”を吐き出すことでもあります。文字通り気が済んでしまって、せっかくの才能を浪費する結果にもなりません。どんなことでも、思いの丈は作品のために取っておくべきです」
 素直な私は、もちろん頷いた。
 すると、とたんにブログを書くことが怖くなった。
 ブログは文章を磨くための”筋トレ”として励んでいたのに。なんと作品を書く気力を失うことにもなりかねない。
 私にとっちゃあ、これぞ大変なミステリーである。
 

2013.1.29 Kiyoshi Nishinomiya