2012
Aug 31
(Fri)

古いフォード・トラック


 私は古いフォード・トラックに乗っている。1964年式だから50年近く前の車だ。オイルが漏れる。ラジエターからクーラント液も漏れる。窓は開かないこともある。
 そのたびに天才エンジニアの落合氏を頼る。私は彼のいいお得意さんかと思えば、あがってくる請求書が驚くほど安い。いまどき味のある車だからと特別に目をかけてもらっている。先日も車検にラジエター修理、ウィンカー修理をしてもらったが、69,000円だった。
 だから買い替えるに買い替えられない。
 魅力的な旧車はたくさんある。1945年式MG・TC。1957年式トライアンフTR3。1963年式ジャガー・Mr.Ⅱ。
 そこを我慢して乗り続けなければ仁義に反する。
 「なんと60万円の1965年式ダットサン・フェアレディを見つけたんですが、なんとか面倒みてくださいませんか」
 そんなこと落合氏には言えない。
 「日産に持っていけば、いいんじゃありませんか」
 きっと落合氏はそう答える。
 しがらみができてしまった半世紀前のフォード・トラック。私は落合氏がレンチを離すまで乗り続けなければならない。

2012.8.31 Kiyoshi Nishinomiya

2012
Aug 30
(Thu)

傷だらけのコーラ


  かつて西城秀樹は「傷だらけのローラ」を熱唱した。「この愛もささげるぅ、ロォォーラァァー」
 古い家を解体するときまって出てくるのが、古いコーラの空きビン、缶。コンクリートの基礎をめくるとかならず土の中にそれらが混じっている。傷だらけのコーラ。
 昨日までの住人が生活しながら畳をめくって根太をはがして床下に捨てていたとはとうてい考えにくい。その家の建築中に工事人によって埋設されたんだろうと思う。
 しかし、なぜ、きまって出てくるんでしょう。当時の習わしだったんだろうか。一服休みの残骸であることはまちがいない。
 「隠れたる欠陥に負う責任」を私たちの業界では「瑕疵担保責任」という。この瑕疵担保責任を肝に銘じているのがこの頃の私たち。
 傷だらけのコーラを見るたびに、当時のせちがらさを感じてしまうのは私だけでしょうか。

2012.8.30 Kiyoshi Nishinomiya

2012
Aug 27
(Mon)

1961年フォード・ピックアップ


 

 ガレージ・オチアイから戻ってきた1961年フォード・トラックはすこぶる快調だ。この夏、それも連日35度を超える猛暑、ド渋滞の湘南海岸134号線でもオーバーヒートをおこさない。
 クーラーなし、3速マニュアル、左ハンドルにもちろんはパワーアシストなし。女子供じゃ100mも運転できない。ハードボイルドな男の車。
 経年変化。塗装皮膜はとっくになく青色の車体は水色に。サビも増殖に増殖。見るからに50年前のフォード・トラックだが、この頃とまどいが出てきた。ちょっとお化粧を施したくなってきた。このまま進めば化石化した走る車。よくぞこんな古い車が走っているもんだと賞賛の声を集めることに間違い。
 しかしねえ、オールド・アメリカン・トラック。赤に塗ってドアには「Coca-Cola」の白抜きのロゴを入れたりしてごらんなさいな。まるでブリキのおもちゃですよ。

2012.8.27 Kiyoshi Nishinomiya

2012
Aug 18
(Sat)

鎮物


 地鎮祭の時に施主様は神主さんから「鎮物」をもらう。大きさは単行本ほどのもの。薄い桐の箱、紅白の水引き。格別におめでたさを感じる素材がうれしい。
 ところが、似あわないのが「鎮物」の文字。「地よ。ここに家を建てるのですが、どうか鎮まってください」となだめる証のお札。おろそかにしたら不吉なんじゃないかと懸念してしまう。
 神主さんは、「このありがたい鎮物を、どうか基礎の下に埋設してくださいな」と告げるもんだから、施主様も工務店も迷わず「はい」とかしこまる。
 井田さんもちゃんと埋設してくれたのかどうか気になっていたようだ。大丈夫。確かに埋めましたよ。
 さて、箱の中身である。何が入っているのか。好奇心満々。10年ほど前私はこっそり覗いたことがあった。ははあ、なるほど。その様子を神主さんに言ってみた。
 「そうですか、見てしまいましたか。くれぐれもご内密に」とのこと。
 私は10年間、その秘密を守り続けている。 

2012.8.18 Kiyoshi Nishinomiya

2012
Aug 09
(Thu)

インドで大停電


 一週間ほど前のこと、インドで大停電があったそうだ。6億8000万人の住居地域に送電が途絶えたという。さすがのスケールだ。今後、世界経済の中心地と呼ばれるだけのことはある。日本の人口1億2000万人。その5、6倍の規模の停電。今日のニュースではインドも火星探査機を打ち上げる計画、知的大国も誇示するという。飛ぶ鳥をも落とす勢い。
 停電は交通機関を直撃。ディーゼル機関車に人々は群がり、車内、車外問わず機関車を覆い尽くし、規定定員の30倍オーバー。それでも機関車は出発したそうだ。
 たくましきかなインド。

2012.8.09 Kiyoshi Nishinomiya