小林千哲(ちあき)・由佳(ゆか)さんのお宅の納戸は天井、壁ともにパイン材仕上げ。ちょっと贅沢。わずか二畳ほどの面積に千哲さん、こだわりを見せた。
「何をお入れになるんですか」
「まずスキーですね」
「へぇー。スキーですか。私も大学時代、スキー部だったんですよ。ご夫婦そろって行かれるんですか」
「行きません」
「じゃ、千哲さんだけ、お仲間と」
「行きません」
「最近まで行っていた?」
「10年は行ってませんよ。寒さには、ぼかぁ、弱いなぁ」
パイン材仕上げの納屋。坪単価にすると、ここだけコスト、お高いのです。塗装材もしっかりシッケンズ。なんたって石川塗装さんの手による刷毛ぬり作業です。石川塗装さんはなかなかの優れ職人。二重丸。輸入住宅の見栄えは最後の塗装仕上げの出来映えによるところが多い。そこで弊社の物件はすべて石川塗装さんなんです。
小林千哲さん、そのこだわりの納戸に10年前のスキー板をまず入れることを考えたんですねぇ。
「そういうスキー板って、私にもあります。雪解け水と大学時代の思い出が染み込んだやつ」
「ぼかぁ、スキー部でもなかったから。そういう思い出は、ありません」
んー、小林千哲さん、なんかこう、会話の歯車が合わないのは、私の気のせいか。
「スキー板って長いですよ。じゃまでじゃまで。納戸にしまうのが一番です」
よもやの勘、当っちゃいないかと思い始めたころ、奥様の由佳さんが口を挟んだ。
「ごめんなさいね、この人、すっごくユニークなんです。笑っちゃうくらい。会社の余興でサザエさん役やって、それがねねね、拍手喝采だったの。まだ私たち結婚前のことで。それでねねね、友達に結婚話うち明けたら、誰と?って聞くのね。えっー!知らなかったの?私、小林千哲と付き合ってたの。誰それ、小林千哲って。えっー、知らないの?ほらあのサザエさんよ。ううう嘘っぉ!やだぁ、由佳あんたったらサザエさんと付き合ってたのーっ!知らなかったぁ。えっ!?まさか結婚するんじゃ。だから、結婚するって言ったじゃないのよ、なに聞いてんのよ、、あんた」
すると、千哲さんがにんまり笑った。
「ぼくたち、付き合ってること、あんまり知られていなかったんだよねぇー」
会話の歯車が合わなかったわけでは、けっしてない。私の昭和31年式の受信アンテナに欠陥があったようだ。私、今年で55歳になります。
2011.6.19 Kiyoshi Nishinomiya