1964年式のトラック・フォードF-100を修理に出した。
へこんだボディ。さびたホイール。3時3分を指したまま止まっている時計。ザーという雑音しか聞こえないラジオ。こういうのは、残しておきたい勲章だが、日増しに液漏れするラジエターには苦慮していた。ボンネットを開けるたびに天才エンジニアの落合氏の顔が浮かび、とうとう修理工場入りとなった。
その落合氏から電話があった。そうたいしたことじゃない、ガムでも詰めりゃとまるね。
「ところで、ボンネットの裏にくぎでひっかくように書かれている文字はなんだい?」と聞いてきた。
どこかの人々を経て、私のところにきた時にはすでに書かれていた、R1526の文字。
頭文字のRからRoute1526、ルート1526という国道名だろうと当初は思っていが、そんな道路はない。
この頃気がつき推測できるのが、Ranch。ランチ。日本語で牧場。
「ルートじゃないね、牧場のR。Ranch1526。牧場の地番じゃないか」と答えると、
「そうだろうと思ったよ。キャブレターに麦の種が吸い込まれていた」
1964年以降アメリカのどこかにあった牧場。そこでカウボーイに使われていたトラックにちがいない。
初めて過去が割れた。
2012.2.08 Kiyoshi Nishinomiya