2012
Sep 19
(Web)

水道工事


 家を建てる時に水道工事はつきもの。欠かせない。建物内の給水・排水、公道の本管接続など。工事内容、工事費共に重要なポイント、目が離せない。
 その工事を請け負ってくださるのが、田口設備さん。社長の小田木(おだぎ)さんはソフトバンクの孫正義によく似ている。毛髪の抜け具合といい、背格好といい、歳のころあいといい、声までそっくりだ。孫正義の資産は8000億円。小田木さんのはその一万分の一ぐらいだと思われるが、言うことは孫正義にひけを取らない。
 「水道工事事業は古代ローマ時代にその発祥があります。すでにいくつもの会社が乱立し、見積りのスタイルも確立されていました。僕は、女性最古の商売が娼婦だとすれば、男性最古の商売は水道工事だと思います」
 ふぅーんと、思わずうなづいてしまうが、聞けば小田木さんは若い頃はトヨタのエンジニアだったという。それにも、ふぅーんと、うなづいてしまう。
 「水道工事代金、もうちょっとお安くなりませんか?」と道路復旧工事中に尋ねれば、
 「ほぼ90%、茅ケ崎市内の給排水のインフラのネットワークは整備されましたよ。今後は各家庭に生じる水流で電気をつくるシステムが普及するでしょう。家庭内水力発電の時代がやってきます。水道事業が電気事業になります。それからです、お安くなるのは」
 秋晴れの下で小田木さん、どこまでも孫正義を気取っていた。

2012.9.19 Kiyoshi Nishinomiya

2012
Sep 18
(The)

金田一さんはガラスブロックがお好き


 

 設計から約一年。金田一さんの家が完成した。金田一さんはガラスブロックがお好き。外部と内部を仕切る壁、そこといわず内部と内部を仕切る壁にもガラスブロックを組み込んだ。ご主人、やはり日本の広告代理店の一、二を争う博報堂グループの方だけはある。見通しの良い環境が身に染み付いているようだ。
 ご主人はさておき、この頃、奥さまにお目にかかれないのが残念だ。和製オードリー・ヘップバーンの奥さま。和製という枕詞をつけるとにわかに怪しくなる。かつて尾崎紀世彦は和製エンゲルベルト・フンパーティングだし、加山雄三は和製アンディ・ウィリアムと呼ばれ、本郷直樹にいたっては和製エルビス・プレスリーだった。みんなとたんに怪しくなる。
 だが、金田一さんの奥さまは怪しくならない。本質を究めていらっしゃる、骨格がしっかりしていらっしゃる。我らが施主の奥さまだから、当然だ。

2012.9.18 Kiyoshi Nishinomiya

2012
Sep 07
(Fri)

フラフープの床下


 井田さんの新築工事がいよいよ佳境になってきた。基礎工事、床を貼る前にライフラインをはりめぐらせる。給水、給湯、ガス配管など。防食チュープが色とりどり。1mほどの輪を描けば懐かしのフラフープに見える。
 フラフープ。1958年アメリカで大流行したことを受けて日本では同年10月18日に都内各デパートで一斉に売り出された。一ヶ月間で80万本売れる大ヒット商品。ところが、腸捻転、交通事故など、フラフープで遊んでいた児童が幾多の災難に遭い、どこぞの教育委員会が禁止令をだすと途端にブームは沈静化。わずか40日で日本のフラフープブームは終焉した。
 私もフラフープを一つ買ってもらっていた。誕生日が発売日の前日の10月17日。当時2歳だったが、なんと腰でぐるぐる回していた記憶がうっすらとある。秋の暮れかかったじゃり道、隣りの子がまわすフラフープ、ポリエチレン管のにおい。
 50数年経った今日の床下のライフライン工事を見るときまって思いだす。

2012.9.07 Kiyoshi Nishinomiya

2012
Sep 04
(The)

それでも稲村ケ崎三丁目


 まだ契約には至っていないので、ここではI氏とする。そのI氏が新居を建てて住みたい所は稲村ケ崎三丁目。高台にある100坪ほどの場所。絶景かな相模湾が一望できる。
 そこへ行くには森の中の300段ほどの石段をのぼっていく。下のコンビニから4-5本のペットボトルを持っていったらビニール袋の紐で指がちぎれんばかりだった。
 近くにはいつぞやの地震の崩落現場もある。それでも稲村ケ崎三丁目。I氏はそこに住みたいと狙いを定めた。
 トロッコを敷くことから始める。建築にあたって人力だけでは建材を運ぶのは骨だ。この計画が浮上した当初は、もう2年も前なんだけれども、ヘリコプターで上空から資材を落とそうと思った。それくらいの内陸の孤島化したところ。
 I氏の独断かと思えば奥さまもこぞって賛成する。一週間に一度だけ下に降りる生活を考えているとのこと。まるでターザンとジェーンのようだ。

2012.9.04 Kiyoshi Nishinomiya

2012
Aug 18
(Sat)

鎮物


 地鎮祭の時に施主様は神主さんから「鎮物」をもらう。大きさは単行本ほどのもの。薄い桐の箱、紅白の水引き。格別におめでたさを感じる素材がうれしい。
 ところが、似あわないのが「鎮物」の文字。「地よ。ここに家を建てるのですが、どうか鎮まってください」となだめる証のお札。おろそかにしたら不吉なんじゃないかと懸念してしまう。
 神主さんは、「このありがたい鎮物を、どうか基礎の下に埋設してくださいな」と告げるもんだから、施主様も工務店も迷わず「はい」とかしこまる。
 井田さんもちゃんと埋設してくれたのかどうか気になっていたようだ。大丈夫。確かに埋めましたよ。
 さて、箱の中身である。何が入っているのか。好奇心満々。10年ほど前私はこっそり覗いたことがあった。ははあ、なるほど。その様子を神主さんに言ってみた。
 「そうですか、見てしまいましたか。くれぐれもご内密に」とのこと。
 私は10年間、その秘密を守り続けている。 

2012.8.18 Kiyoshi Nishinomiya